見るの〜?怖いよ〜

暑いからまたまた妄想劇場の始まりで〜す。
暑いときにひんやり・・できるかもよ(笑)





「どうしたのだ?なんだか興奮しているようだが アンドレ
「ああ 月組公演『ロミオとジュリエット』を観劇してきたんだが、俺の心は今感動の渦に翻弄されているんだ」
「ロミオとジュエッタ・・?」
「ジュリエットだ。劇作家ウィリアム・シェイクスピアの代表的な戯曲の一つだ 知らないのか?オスカル」
「神がこの世を創造された時から この世界は不思議に満ち溢れている。そんな大いなる神秘を前に この私がすべてを理解していると思っているのなら それは買被り過ぎだ アンドレ
「・・つまりは 知らないんだな。よし 俺が簡単にあらすじを話して聞かせよう。むかしむかし・・」
「なんだ お伽話なのか」
「違〜う! 究極のラブストーリーだ。まあ黙って聞いてくれ。その昔 花の都ヴェローナに代々憎しみ合ってきたキャピュレット家とモンタギュー家があった。
キャピュレット家にはジュリエットという娘が モンタギュー家にはロミオという若者がいたんだ。
ある日キャピュレット家の仮面舞踏会に忍び込んだロミオはそこでジュリエットと出会い 瞬く間に恋に落ちてしまうんだ」

「一瞬にして・・というのか!?そんなことがあるものなのか!?・・・私は おまえの想いに気がつくのに十何年かかったというのに・・・」
「それはおまえが鈍感だからだ・・・。
まあ一目惚れってやつだな。
ふたりは ロレンス神父の計らいで結婚式を挙げるんだ。だが ロミオは闘争に巻き込まれ殺人を犯してしまい町を追放。悲しみに暮れるジュリエットは 仮死状態になりロミオを待つ というロレンス神父の妙案に従うも 行き違いからロミオはジュリエットが本当に死んだと思い 自らも死を選んでしまうんだ。目覚めたジュリエットは冷たくなったロミオの姿に涙し 今度こそ本当に命を絶つ。そんなふたりの若者を失った両家の大人たちは そこでやっと自分たちの愚かさに気がつく・・・という話だ」

「・・・救いようのない話しだ」
「いや!これこそが純愛なんだ!これほどの深い愛が他にあると思うか?命をかけても貫いた愛だ。自らの命を犠牲にしてまで大人たちの過ちを正した究極の博愛だ!」
「・・・感動しているところを悪いが ロレンス神父とは何者なのだ?」
「ロレンス神父は ただの神父だ」
「ただの神父にしては 両家の都合も聞かず結婚式を挙げてやったり 仮死状態になる薬を持っているなど 怪しくはないか?」
「・・・・そこは ストーリー上あまり詮索してはいけないところなんだ。しかし 神父には憎しみ合う人々をなんとか救いたいという思いがあったんだ」
「だが この神父があんな薬さえ持ち出さなければ ロミオもジュリエットも誤解したまま死ぬこともなかったはずだ」 
「・・・いいかオスカル この物語が見る者の涙を誘うのは 想う相手が死んでいると思ったその時 そこで一時の躊躇いも見せずにあとを追っていくその勇気なんだ」
「なるほど 深い愛情と迷う事のない勇気が見る者の涙を誘う・・・か・・・」
「そうだ 観客はまさにそこに感動を覚えるんだ」
「悲劇ではあるが あとに残したものは大きかった・・ということだな」
「万人を感動させるには不幸ではあっても 幸せな余韻が残らなければならない・・・素晴らしい舞台だった」

「不幸は涙を誘う・・・なあアンドレ
「いや!なにも言うな。いやいや聞いてくれ。俺の両親は俺が幼いころに亡くなった。そのあとばあやに引き取られたが お嬢様の遊び相手になってくれと紹介されたおまえは男勝りの勝気な女。やがてミューズのように美しく芳しくなるおまえに俺の心は乱れるばかり。なのに 触れることすら許されず近くにいなければならない苦しさに どれほどの理性と闘ったことか。おまけに 身に覚えのない許嫁の存在に翻弄され おまえをかばって受けた眼の傷の痛みより ばあやの辛辣な言葉の痛みにどれほど涙したことか。 やっと俺の想いがおまえに届いた時にはもう俺の眼は見えなくなっていた。せめて戦場で華々しく散りゆこうと勇んでの進駐だったのに 飲み過ぎで体調を崩していたおまえを助けようと出たところを撃たれて死んでしまう・・・・充分過ぎるほど不幸な人生だ。これ以上の不幸を上乗せする気はないから お願いだから余計な不幸を思いつくな オスカル」 

「私たちはこれまで多くの人々の感動の涙を見てきた。それこそ万人を納得させられるだけの素晴らしい作品だからだ。 だが同時にその涙の何割かには絶望の涙も混じっていたことを知っている。登場人物の一人としてそれを見過ごすことはできないと思わないか?アンドレ
「いや 見過ごしてくれてかまわん」
「おまえが言うように おまえの生い立ちはたしかに不幸の連続だった。そんな不幸な人物が最後の最後まで不幸であった時 人々は涙し自分の人生と重ね合わせ自分の幸せを感じ取るんだ。そんな役目はアンドレ おまえにしかできない」
「オスカル 聞いていなかったのか 物語は悲劇であっても 最後には良かったと思わせる結末でなくては 幸せの余韻で劇場を後にできないんだ」
「そう!だから不幸な人生のままアンドレ おまえだけが天国に行くんだ。それを私は涙で見送る。だが月命日には必ず花を手向けに墓を訪れ 生涯誰とも結ばれずアンドレのことだけを想い 慎ましく暮らすのだ。このオスカル フランソワ・ド・ジャルジェ が誰とも結婚しないのだ。アンドレの不幸な人生に涙しつつも あのオスカルさまが一生涯誰のものにもならないなんてス・テ・キ と観客は幸せの余韻充分に帰路に着けるではないか」

「・・・・いい話しだぁ だが そんな話になったらそれこそ何割かで済んでいた絶望の涙が溢れだす事だろうなあ」
「そうだろうか・・・やはり 元々の話しをあまりいじってはよくないな。いいアイディアではあるが それはいつかの機会まで私の心の中で暖めておく事にしよう」
「ぜひそうしてくれ オスカル・・・そうでなくても近々訪れる大々的イベントの時には 俺たちの都合などお構いなしに引っ張り出されることは間違いないような気がするじゃないか。その時どんな状況下であっても どんな理不尽な扱いであっても 俺たちが築き上げてきたこの世界を守り通すことのできる 強い精神力を身に付けようじゃないか オスカル」
「そうだな ストーリー云々の前に どんな逆境にも負けない強い心を作るのが先決だったな」
「感動の『ロミオとジュリエット』の話から 俺たちの作品の存在価値まで熱く語ることになるとは やはり観劇してきてよかった。
そして最大にして最高の 俺の心の内なる叫び に今気がついたんだが 思い切って言ってもいいか オスカル?」
「なんだ」
小池修一郎先生潤色 演出 がなんだか 羨ましいんだ・・・」
「・・・」
           

   
                         『完』






                                                       自己満足(笑)